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2009年6月17日 (水)

 永遠の初体験 ~村上春樹作品における性交~

漫画家で永遠の初体験作家といえば田中ユタカだが、村上春樹は純文学における永遠の初体験作家なのではないかと思う。


先日、「1Q84」がヒットしていることに関する記事で内田樹氏のコメントを目にした。

「すぐれた作家の作品を読むと、読者は『どうして私のことを、あなた(=作者)は知っているんですか?』という思いを抱く。それが世界各国の読者に言われるようになれば作家も『世界レベル』ということになる。村上春樹は世界中の人々に共通する原型的な経験を描いているのかもしれない」

村上春樹の作品において、性交は非常に特別な意味をもつ行為である。
それは深い精神の交流であり、同時に限りない喪失である。
そして、ときに世界の在りかたを変える力さえ持つ。


僕が初めて村上作品に触れたのは、小学校高学年か中学生のころだった。
両親はほとんど本を読まない人だったが(本を読む暇もないほど忙しく立ち働いてもいた)、ちょうどそのころ「ノルウェイの森」のブームがあって、そのハードカバーだけは自宅にあったのだ。

「ノルウェイの森」がどのような作品かまったく知らずに読み始めたのだが、子供の僕はその露骨な性描写に唖然とした。
このような卑猥な行為が許されるのかと少し怒りを感じさえした。
吸い込まれるように読み進むのを止めることはできなかったが、僕の中に残ったのはほとんどそのようなショックだけだった。

成長し、ある種の喪失の中にいた自分が再びその作品を手にしたとき、僕は再度ショックを受けることとなった。
このような深い喪失が在り得るのかと。
そこに描かれていた性行為は、どうすることもできない悲しみの一つの形だったのだ。


多くの人々にとって、初めての性交というものはとても私的で稀有な(そして「原型的な」)経験ではないかと思う。
それはかつて、僕たち一人一人の中で世界の在り方を変えるほどの力を持っていた。
そして我々は、村上春樹の作品群を通じてそのような親密な行為を追体験することになるのではないかと僕は考えている。
これが、僕が村上春樹を「永遠の初体験作家」と呼ぶ理由だ。

10年の時を超えて経験した「ノルウェイの森」の衝撃は僕の内的世界に大きな影響を与え、そして村上春樹の作品を夢中で読み漁らせることとなった。
そういった意味において、僕は前出の「喪失」に感謝している。
あの失われた3年間がなければ、今の僕はなかった。

投稿者 yone : 2009年6月17日 21:28

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