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2005年8月29日 (月)
■ 3日目: 自分探しオーラMAX (いわき~仙台 約150km)
廊下から聞こえてくる話し声で目が覚めた。
一番奥の部屋に泊まっていた大学生くらいのグループが出発の準備をしているらしい。
充電器に繋いでおいたPHSを見ると時刻は午前5時半。
予定より若干早かったが、睡眠は十分だったのでそのまま起床することにした。
ベッドの上で体を起こすと体中の筋肉が悲鳴を上げる。
昨日のハードな行程のせいで全身が筋肉痛だ。
左膝の痛みは相変わらず。
そのうえ、左膝をかばったためか右膝にも痛みが出てしまっている。
とりあえず右膝にも湿布を貼ってみたものの、無事走ることができるか不安が募る。
今日のコースが平坦でありますように……。
部屋の窓から外を覗くと、昨日とはうってかわって雲ひとつない青空。
しかし、夜のうちに雨が降ったらしく大きな水溜りができていた。
「昨晩野宿をしていたら酷い目にあっていたかもしれない」 と思うと、屋根の下で眠れることのありがたさを再認識させられる。
一部乾いていなかった洗濯物に扇風機で風をあてて乾燥させるなど準備に時間がかかり、YHを出発したのは7時半。
宿泊客の中で一番遅い出発になってしまった。
三日目ともなると、サドルにまたがった尻が痛い。
YHの目の前には白砂青松100選に選ばれている新舞子浜が広がり、道路沿いには見事な松林が続いているのだけれど、膝と尻の痛みに慣れるのに必死な僕には景色を堪能する余裕はない。
どちらも体が慣れてくれば痛みは軽くなるのだが、朝は体がほぐれていないだけに余計辛い。
しばらくの間はサドルから半分尻を浮かせたまま走るしかなかった。
YHから30分ほど走ったところにあったコンビニで、おにぎりとアミノ酸ゼリーの朝食を摂っていると、年季の入ったミニベロに乗ったおじさんに話しかけられた。
話を聞いてみると、50代になってから徒歩旅行を始め、最近は自転車も使って日本中を旅しているとのこと。
既に四国遍路を2回歩いたほか、日本中あちこちを旅行しているそうだ。
今回は、昨日仙台を出発してここまで走ってきたそうで、いわき市のあたりまで走ると、以前に旅したぶんと合わせて6号線制覇になるらしい。
失礼と思いながら年齢を聞いてみると、なんと64歳とのこと。
がっしりとした身体がよく日焼けしていて、エネルギッシュな立ち振る舞いはとても還暦を迎えているとは思えなかった。
一足先に出発したおじさんが坂道を颯爽と登っていくのを眺め、「僕も頑張らなきゃ」 と気持ちを新たにする。
朝食を終えて再び走り出すと、6号線はいきなり丘陵地帯に入り込んだ。
ツーリングマップルの縮尺では全く等高線がないエリアだが、実際にはだらだらしたアップダウンがかなりの距離に渡って続いている。
急坂というほどではないけれど、どこまで続くかわからない上り坂は精神的に辛い。
おまけに空は雲ひとつない天気。
フラフラと坂を上っていると額からぽたぽたと汗が流れ落ちる。
脱水症状や熱射病が怖いので、道路沿いに点在するコンビニを見つけては水分補給と休憩を繰り返した。
国道沿いの郊外にあるコンビニは、僕のような自転車旅をしているチャリダーが立ち寄ることも珍しくないらしい。
僕もだいぶ自分探しの旅に馴れ、自然と首にタオルを巻いたままコンビニに立ち寄ったりするようになっていたので、会計の際に 「どこまで行くの?」 などと話しかけられることもあった。
アップダウンに苦戦しつつも、昼過ぎにいわき市と仙台との中間地点に到着。
朝から上り坂に苦戦して今日の目的地の仙台にたどり着けるか心配だったので、昼の時点で中間点まで来れて一安心した。
道の駅そうまで昼食をとり、6号線をまた北に向かった。
宮城との県境付近で再び坂が多くなってきたが、昼食をしっかりとったためか午後は比較的順調に距離をかせぐことができた。
関東を脱出したせいか、このあたりまで来ると僕と同じように自転車旅をしているチャリダーをちらほら見かけるようになった。
同じチャリダー同士ということで親近感がわき、行き違う際に自然とお互いに手を上げて挨拶するのだけれど、これがとても気持ちいい。
言葉を交わさずとも見ず知らずの相手と連帯感を持てるというのは、ツーリングの大きな楽しみかもしれない。
昨日と一昨日の経験から野宿する気は完全になくなっていたので、仙台到着の目処が付いたところで早速YHに予約を入れることにした。
ツーリングマップルで調べると仙台市内には3件のYHがあったので、一番南にある道中庵ユースホステルに電話。
昨日は4人部屋に1人で泊まったが、今日はYHらしくもう一人と相部屋になるとのこと。
仙台の手前で阿武隈川を渡ると6号線と4号線の合流点が見えた。
交差点の近くにある距離ポストを見ると東京からの距離は約340km。
一昨日、旅への不安とともに思いを馳せた場所が今目の前にあるのだと思うと、まるでゴールしたかのような嬉しさがこみ上げてくる。
4号線に入ると、突然交通量が増えたうえに路面の再舗装工事路が行われているせいで、ひどく走りにくくなった。
急にペースが落ちて焦りそうになるのを抑え、できるだけ膝に負担をかけないよう歩道をゆっくり走る。
目的地の道中庵YHは住宅地の中にありツーリングマップルの地図だけでは見つけにくかったものの、幸い昨日に比べるとだいぶ時間に余裕があったので無事日没前に到着することができた。
いかにも 「合宿所」 という雰囲気だった昨日の平YHとはうって変わり、今日の宿道中庵YHはまるで料亭か一軒宿の温泉といった風情。
門にかかったYHの看板を確かめても、思わず 「本当にここでいいのか!?」 と不安になってしまう。
立派なのは外見だけではない。
部屋は一般の温泉宿と言われても文句の無い作りだし、談話室には英字新聞まで用意されているというサービスの良さ。
その上、なんと風呂は檜風呂だ。
一口にYHといっても色々な施設があるということは出発前に調べて知っていたけれど、まさかこんな立派な場所があるとは想像していなかったので驚いてしまった。
この設備の充実ぶりに気を良くしたから……というわけではないけれど、この先もYHに宿泊することに決め、宿泊の手続きと同時にYH会員の登録を行うことにした。
YHでは通常、会員以外はビジター扱いになり宿泊費がプラス1000円となる。
会員登録には2,500円かかるものの、順調にいっても今日を含めてYHに3泊することになるので、会員になったほうが最終的に500円得になる。
手続きを終えて部屋で荷物を整理していると、相部屋の相手が風呂から戻ってきたので挨拶がてら話をした。
普段なら初対面の相手とどんな話をすれば良いのか困ってしまうところだが、YHではお互い旅行者なので 「どこから来てどこへ行くのか」 を話すだけで盛り上がる。
話を聞いていると、相手は埼玉から来た大学3年生とのこと。
このYHに数日間泊まり仙台観光をするのだそうだ。
お互いの話が一段落したところで早速風呂へ。
朝から一生懸命日焼け止めを塗っていたのだけれど、雲一つない晴天のおかげでかなり日焼けしてしまったらしく、湯船につかると手足がひりひりと痛んだ。
夕食は頼んでいなかったので、夕涼みがてら近所のマックまで散歩してハンバーガーをテイクアウト。
牛タンを食べに行く気合はなかったので、イーグルスのロゴが入ったビールで仙台の気分を味わいつつ、PHSから掲示板に近況報告を書き込んだ。
相部屋の大学生がかなり話し好きな性格だったこともあり、話をしているうちにいつのまにか時刻は11時過ぎになっていた。
明日からの旅に備え、慌てて今日の旅の記録をメモして部屋の明りを消す。
身体はいつになく疲れ切っていたけれど、明日からの旅のことを思うと興奮してなかなか眠ることができない。
明日はいよいよ松島だ……。
投稿者 yone : 2005年8月29日 23:59