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2005年2月23日 (水)

 ベルリン陥落1945

アントニー・ビーヴァー 著
川上洸 訳

1942~1943年のスターリングラード攻防戦に敗北したドイツ軍は、それまでの驚異的な攻勢から一転して赤軍の猛反撃を受け、劣勢を挽回することなく1945年の全面降伏へと凋落していく。
この本は、ドイツ・ロシア両陣営の膨大な歴史資料を基に、1945年1月の赤軍の東プロイセン侵攻から5月のベルリン陥落までの激戦を詳細に描いたノンフィクションである。


ヒトラーがドイツ国民を道連れにして破滅していく様は、戦争終結を宣言することができる人間がいた日本の幸福を強く印象付ける。もし本土決戦という愚かな決断をしていれば、我々の社会には信じられないほど深く大きな傷跡が残されたに違いないからだ。

本書では多数の手紙や日記の引用を通して、一般市民や女性への戦時暴力が生々しく描き出されている。戦時下での暴力行為についてある程度想像はしていたけれど、日常的に繰り返される破壊、略奪、殺人そしてレイプの残虐さは眩暈がするほど凄まじい。


しかしそんな中、暴行によって心身共に大きな傷を負わされたはずの女性たちが意外な言葉を残している。

ハンナ・ゲールリッツは夫と自分自身を救うために、泥酔した二人のソ連軍将校に身をまかせた。「あとで私は夫をなぐさめ、元気を取り戻させてやらねばならなかった。彼は赤ん坊みたいに泣いた」
ウルズラ・フォン・カードルフは、ドイツ女性は男性よりも気丈にふるまうことを強制されてきたけれども、やがて収容所から戻る男性にたいして、定石どおりの態度に戻らざるをえなくなると予想した。「私たち女性は、完全に打ちのめされ、自暴自棄におちいったこれだけ多数の男たちを理解し、いたわり、支えるという、この戦争のなかでもいちばんしんどい仕事にこれから取り組まねばならないらしい」

敗戦後の混乱の中で呆然と立ち尽くす男たちと、心の傷を抱えつつも今日を生き抜くため現実に立ち向かう女たち。その対比は、近代を乗り越えた我々の世界が次に求めるべき、強さと力のあり方を思わせる。

こんな問題ばかりの家族を抱みこむ肝っ玉母ちゃん
今、国際社会に求められているのは、そんな母性の力強さと包容力なんじゃないだろうか。

投稿者 yone : 2005年2月23日 23:17

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